午後5時。
「……あれ?」
 その日、須布らいとはいつものように「コンビニぶんぶん」にやって来た。その日レジにいたのはこの店の美人店長、午後乃みるくである。その日の店長はいつもとは少し違っていた。
「あ、らいと君。」
 みるく店長の顔は真っ赤であった。
(店長……?まさか俺が来たから赤く……?いや、そんなわけねーか、俺と麦千代がホモじゃねーかって疑ってるんだから。ということは……。)
「らいと君、早く着替えてきてよ。」
 みるく店長はこころなしかいつもより艶っぽかった。
(店長……?間違いない。)
「風邪ひいたんですか?」
「そ〜なのよ〜。しかも私だけじゃないの。麦千代君も風邪でお休みだって。」
「麦も?」
(そういや学校で姿見なかったな。)
「じゃ、あと一人お願いね。」
「はい!」
(ラッキー、廃棄品食べ放題だ♪)
「あ、そうそうらいと君。」
 みるく店長はらいとの肩をつかんだ。
「廃棄品、食べないでよね。」
 そう言うみるく店長の顔は笑っていなかった。
「は、はい……。」
 そして、返事しながらもらいとの顔は引きつっていた。

午後6時。
「……しかし……暇だなあ……。」
 らいとがバイトに入ってから1時間。客は誰も来なかった。
「こんな日も珍しいよなあ……。」
 らいとがそうつぶやいた時、
「何この店ー?誰もいないじゃなーい。」
 阿久えりあが入ってきた。
(あ、あいつたしかこの前店長にやられてた女だ。あの後大変だったんだよなあ……。)
 らいとがそう思いながらえりあの行動を見ていると、
「やっぱりダサいよね、この店ー。」
 えりあが相変わらずの事を言っている。
(うるさいなあ……やっぱりああいう女はダメだな。みるく店長みたいに女ぽくなくちゃあ……。)
「だっさーい。この店の店長ももうおばさんだしー。」
 その時だった。えりあが悲鳴とともに倒れた。
「えっ……。」
 らいとが殺気を感じふと後ろを向くとドアの隙間から一瞬光る目が見えた。
「て……店長?」
 らいとはあらためて店長の恐ろしさを感じたのであった。

午後6時18分。
「いらっしゃいませー。」
 また一人の客が入ってきた。坊主頭の学生、山崎である。
(あ、あいついつもいらん事言ってくんだよな。いつも麦千代に突っ込まれているんだよな。そういやこいつ中学生か?高校生か?高校生だとしたら……りんぐと付き合ったりするのかな?まあ、麦千代よりかはましか……。あれ?)
 いつのまにか山崎がいなくなっている。
(あれ?何しに来たんだ?)
 また店内には静けさが戻った。

午後6時37分。
 らいとが大きなあくびをした時一人の女性がやって来た。
(あ……あれたしか木村野とかいう人の彼女で……ぐりこって名前だっけ?)
 ぐりこはパスタを手にした。
(夕飯かな?)
 ぐりこはミートソースの缶を手にした。
(多分夕飯だな。料理上手いんだろうな。いいなー木村野は。彼女の手作りとか食べてんだろうなー)
 ぐりこはタバスコの箱を手にした。
(あれ……?)
 ぐりこはタバスコの箱をさらに手に取った。さらにさらに手に取った。さらにさらにさらに手に取った……?
(いくつ取ってるんだ?)
 結局ぐりこは陳列してあったタバスコを全て手に取った。
(……いったいあんなに買ってどうするんだ?)

午後7時。
「いらっしゃいませー。」
 客も少しづつ増えてきた頃らいとは一人のメガネをかけた客に目が行った。
(あれ?あいつ木村野だ。そっか彼女と今日は……。)
「あのーこれください。」
 木村野がビールを持ってレジにやって来た。
「はい、かしこまりましたー……。」
 こころなしか木村野は嬉しそうである。
(いいなー彼女の手作りかー。俺もいつかは店長の……。)
 そこまで思った時らいとの頭の中に一つの記憶がよみがえった。
(……そういやあのケーキいったいどうしたんだっけ……?)
 らいとは以前もらった手作りのクリスマスケーキのことを思い出した。
(……だめだ、手作りなんか食ったら死んじまう!)
「あのー、すいません……?」
 木村野は怪訝そうな顔をしている。
「レジの方……早くお願いしたいんですが……。」
「あ、は、はい、すいません。」
(はあ……だめだ。俺が料理うまくならなきゃ……。)
 しかし、この後木村野はぐりこ特製の激辛スパゲティーを食べる事になろうとはらいとの知る由も無い事である。

午後8時41分。
「やっほー、麦ちゃん。……あら?」
 店内に軽い感じの女性、麦千代の母上が現われた。
「麦ちゃんは?らいと君。」
「あ、今日は来てないっすけど……。」
「あら?なんで?休みの日だった?」
「風邪ひいたらしいらしいっすよ。」
「あら、じゃあ看病に行ってあげなきゃ♪おかゆどこかしら?」
「たまには手作りした方がいいんじゃないっすかね?」
「いいじゃない、別に。」
(麦千代も大変だな……。)
 しかし、この後麦千代が母上の看病でとんでもない目にあおうとはらいと君の知る由もないのである。

午後10時56分。
「ふう。」
 麦千代の母上が来てから特に目立った事もなく、もうすぐ彼のバイトの時間も終わりである。
「一人でもなんとかなるもんだな。」
 そうらいとは自分をほめるかのようにつぶやいた。

「……あらそう……武藤君も来れないの……じゃあ、早く風邪治してね。」
 みるく店長が電話を切った。
「……風邪流行ってるのかしら?季節外れなのに……私も人の事は言えないけど……。」
 そうつぶやくとみるく店長はらいとのもとへ歩き始めた。
「らいと君引き受けてくれるかしら?」
 そう、この日らいと以外のバイトが全員風邪をひいてしまいこれから朝までらいと一人で店番をこなさなければならなくなったのである。

「……りんぐのやつはもう寝てんだろうな。」
 らいとは家にいる妹の事を考えていた。
 しかし、当然一人でやらなければならない事などはらいとはまだ知る由もないのである。
〜END〜




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